「新・将棋論考」その2~渡辺は、なぜ聡太君に勝てないのか?~

渡辺が聡太君に勝てない理由(天彦論)PART2

~ 佐藤天彦九段の考察 ~

この疑問に、第81期名人戦 第1局の現地大盤解説会で佐藤天彦九段が答えてくれました。

その話を要約し、多少加筆しました。

渡辺さんの将棋は、戦略的合理的考え方で、見切りが良いところが長所。

羽生世代の棋士は、真理を追究する面と、芸術的に捉える面の2つの面を持っており、私(佐藤)もその影響を受けた。

ところが、渡辺さんは、これを否定することで、羽生世代に伍して来た。

感想戦で私が示す指し手に、渡辺さんは「そんなの考えてもしょうがないしょ!」と言って、見切って来る場合がある。

羽生世代の影響を受けた私からすると「えっ!?拘らないんだ、この人」と心中で呟く。

渡辺さんは、将棋の真理を追究することは、無駄な読みが多く非効率だ、と考えている。

ましてや、芸術的に捉えるなんて、ナンセンス。

時間をかけて優劣がハッキリするのであれば、読むが、そうでないと判断したら、切り捨てる。

勿論、真理を探究した相手に負かされることもある。

しかし、それは確率の問題。10回のうち3回も無い。7回は勝てる。

だから、真理をトコトン追究するタイプの相手には勝ち越せる、と、渡辺は自信を持っている。

「将棋は畢竟、相手に勝つことで、盤上の真理を追究することじゃない」が渡辺の信念。

しかし、この見切りが通用しないほど、読みが深く真理を追究する棋士が現れた、それが藤井聡太。

見切り論上、見切りが上手く行く相手なら、10回中7回勝てるが、逆に、上手く行かなければ、10回のうち7回負かされる羽目になる。

これが、聡太君に大きく負け越している原因。

これに加えて。

実際の対戦成績をみると、渡辺は、10回中8回負かされている。

渡辺自身は、10回中9回負かされている口振りだ。

本来なら、10回中6~7回の負けに留まるのが相場だ。

実力から測って順位付すると。聡太君に対して、
10戦中6〜7敗するのが渡辺明。
7〜8敗するのが他のA級棋士。
9敗以上するのがその外の棋士。
と、なる筈。

だから、渡辺明は、1~2回余分に負かされている計算になる。

負け過ぎ!

この原因は、渡辺の「見切りの良さ」が「諦めの早さ」に繋がっているのではないか。

渡辺は自分と聡太君の差を「才能が違う」と、あっさり答えている。(『将棋の渡辺くん』より)

普通、こんな言葉は思っても口にしたくないものだ。

他にも、弱気な発言をツイッターで吐露している。(註1)

これでは戦う前に勝敗が着いている。

勝てる筈がない。

聡太君との対戦成績が極端に悪い原因は、この「諦めの早さ」にある。

頭脳明晰な上、竹を割ったようなさっぱりした性格の渡辺故の結果だろう。

故(ゆえ)の

追記:逆に言えば、今まで格下の相手には、10回のうち1~2回は、余分に勝って来た。

<「その3」へ続く>

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【註解】

註1.弱気な発言をツイッターでしている。

〇第48期 棋王戦五番勝負 第3局後のツイッター(2023年3月5日付)

渡辺 明@watanabe_1984·Mar 5
棋王戦第3局。
・・・終局してすぐに後手玉の詰み筋を指摘され・・・先手玉の詰み筋も指摘されて、正直、勝った気はしない・・・

〇第81期 名人戦 七番勝負 第2局後のツイッター(2023年4月28日付)

渡辺 明@watanabe_1984·Apr 28
名人戦第2局。
・・・勝負所が残っていたことに気が付きませんでした。
最後まで闘うという当たり前のことができてなくて、すみません。