藤井聡太君、最年少名人!最年少七冠達成!
「目の前にあった蜜柑を手にしたら、七つ目のタイトル名人位だった」
昭和58年(1983年)6月、今から40年前、谷川浩司八段(現・十七世名人)は、21歳で史上最年少で名人位を獲得した。
その当時のことを、芹澤博文八段が次の様に綴っている。(註1)
「スッスッと歩いて来て、目の前にあった、食べたいと思った蜜柑を食べたら、それが名人位であった。他の劣れし者は、必死に蜜柑を食べたいと思っていても側にも行けない。どうも谷川は別な奴のようである。」(註2)
この一節は、40年もの間、「名人」と聞くと、その都度、私の脳裏に蘇って来た。
そして、今、その史上最年少を更新した藤井聡太君を観て、初めて芹澤の心境を理解できたような気がする。
「目の前にあった蜜柑を手にしたら、それが七つ目のタイトル名人位だった」

蜜柑(みかん)
こんな感じで聡太君は、史上最年少名人・史上最年少七冠を手に入れたのだろう。
角道を止めて、横綱将棋で勝った!
渡辺名人は、2年前から次々とタイトルを聡太君に奪われ、今回、名人を失うと無冠と成る。(註3)
屈辱の何物でもない。
さらに、渡辺にとっては思い入れの強い、悲願の名人位である。
是が非でも守りたい。
発言は淡々としている様でも、必死に準備していたことは、間違いない。
当り前である。
その渡辺の今シリーズの策戦は、「角を交換しないで玉の守りを固めて戦う」で、雁木模様が狙いだった。
対して、聡太君も
「雁木面白そうですね。今回の七番勝負は、雁木シリーズにしましょう」と同様に角道を止めた。(註4)
渡辺名人、驚いた、と言うか、唸ったでしょうねえ。
だって、公式戦で初めて、聡太君が△4四歩と角道を止めたんですからねえ。
全く予想してなかった。
ただ、自分の策戦の裏返しをされたのだから、文句は言えない。ははは
これは、興味深いですねえ。面白い!
今第5局、聡太君の雁木模様に対して、渡辺は、菊水矢倉で迎え撃つ策戦を用意していた。
恐らく、1日目の封じ手までは、満足の行く駒組みで、内心北叟笑んでいたのではないか。

北叟笑(ほくそえ)む
後手は手詰まりで、無理仕掛けして来る、と、渡辺は踏んでいた。
事実、聡太君も、困った。
ところが、中終盤力が飛び抜けていて、逆転した。
見応えのある横綱将棋でしたねえ。
パチ!パチ!パチ!(拍手)
予言通り!今期名人戦は雁木シリーズ
先の第48期 棋王戦は、全4局とも角換腰掛銀シリーズでした。
今回の名人戦は、私が第3局終了時点で指摘した通り、雁木シリーズでしたね。
第3局、渡辺名人が角換腰掛銀を誘ったにも拘らず、聡太君は、△4四歩と角道を止めて雁木模様を選択したのです。
この△4四歩は、聡太君がプロ棋士になって、初めてのことです。
これは何度でも視聴者に伝えるべきことです。
ところが、解説者の棋士は、全く触れない。知らないんですね。う~ん、憚りながら、解説の仕事を引き受けるなら、自身の対局並みに準備して欲しいなあ(苦笑)
渡辺は、先手番なら角換腰掛銀も混ぜようか、と考えていたのですが、聡太君に断られた。
でも、自分のやった裏返しをやりましょう、と提案されたのだから、同意するしかない(笑)(註4)
「第五局も、雁木模様の駒組になります!」
と、私は前回断言したが、恐らく、私以外の多くのファンも予想していたに違いない。
予想できなかったのは、解説者の棋士たちだ。
もっと良く聡太君を観察しましょうよ。ねえ。
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【対局ニュース】
第81期 将棋 名人戦 七番勝負 第5局
▲渡辺明名人 vs △藤井聡太六冠(竜王・王位・王将・叡王・棋聖・棋王)
対局日:令和5年(2023年)5月31日(水)・6月1日(木)
場所:長野県高山村 山田温泉「緑霞山宿 藤井荘」
持時間:各9時間
開始時刻:5月31日、9時
終了時刻:6月1日、18時53分
結果:94手で△藤井六冠の勝ち。
シリーズの成績は、藤井4勝、渡辺1勝で藤井の名人位獲得で終了した。
主催:毎日新聞社、朝日新聞社、高山村地元
協賛:大和証券グループ
20歳10カ月の藤井新名人は、谷川浩司十七世名人が持っていた21歳2カ月の最年少名人獲得記録を40年ぶりに更新するとともに、1996年の羽生善治九段以来、史上2人目の七冠を達成した。
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【註解】
註1.芹澤博文八段
芹澤 博文(せりざわ ひろぶみ)
昭和11年(1936年)10月23日 – 昭和62年(1987年)12月9日、51歳没
静岡県沼津市出身。高柳敏夫名誉九段門下。タレントとしても活躍した。
14歳で入門。19歳で四段。1年目の順位戦こそ惜しくも昇級を逃すが、2年目からは4年続けて昇級し、24歳でA級八段となる。
クイズ番組『アイアイゲーム』のレギュラー回答者で、世間にプロ棋士の存在を知らしめた一人だ。同時期、ヒット曲『おゆき』で一躍名を馳せた内藤國雄九段もプロ棋士の好感度を上げた一人だ。
註2.「スッスッと歩いて来て~」
第42期名人戦七番勝負 谷川浩司名人 vs 森安秀光八段 第1局の観戦記「いずれにしても名人は神戸」 記・芹沢博文八段 より抜粋。〔『将棋世界』誌 昭和59年(1984年)6月号〕
註3.2年前から次々とタイトルを奪われ
〇藤井が渡辺からタイトルを奪取した棋戦と日時
1.2020年7月16日 第91期 棋聖戦 五番勝負 第4局 渡辺明棋聖vs藤井聡太七段
結果:藤井が勝って、シリーズ3勝1敗で、棋聖位奪取。初タイトル、史上最年少(17歳)タイトル保持者となった。
2.2022年2月12日 第71期 王将戦 七番勝負 第4局 渡辺明王将vs藤井聡太竜王(棋聖・王位・叡王)
結果:藤井が勝って、シリーズ4勝0敗で、王将位奪取。史上最年少五冠(19歳)となった。
3.2023年3月19日 第48期 棋王戦 五番勝負 第4局 渡辺明棋王vs藤井聡太竜王(棋聖・王位・叡王・王将)
結果:藤井が勝って、シリーズ3勝1敗で、棋王位奪取。史上最年少六冠(20歳)となった。
註4.今七番勝負は、雁木シリーズ
第1局、▲渡辺vs△藤井。角換腰掛銀模様の出だしから、渡辺9手目▲6六歩。結果、110手で後手藤井の勝ち。
第2局、▲藤井vs△渡辺。渡辺4手目△4四歩。結果、87手で先手藤井の勝ち。
第3局、▲渡辺vs△藤井。渡辺9手目▲6六歩ではなく▲8八銀。角換腰掛銀を誘った。しかし、聡太君は10手目△4四歩から雁木に組んだ。これは渡辺の想定外だった。渡辺は、矢倉に組んで、▲8八玉と入城した。結果、87手で先手渡辺の勝ち。
第4局、▲藤井vs△渡辺。渡辺4手目△4四歩。渡辺、居玉+7一銀と意欲的な急戦策で臨んだ。結果、69手で先手藤井の勝ち。
第5局、▲渡辺vs△藤井。渡辺9手目▲6六歩ではなく▲8八銀。角換腰掛銀を誘った。しかし、聡太君は10手目△4四歩から雁木に組んだ。これは渡辺も想定範囲内。渡辺用意の策戦は、矢倉ではなく、菊水矢倉。▲8九玉と囲いに入った。封じ手辺りでは、渡辺優勢だったが・・・結果、94手で後手藤井の勝ち。