令和6年の将棋界を振り返り、令和7年の展望を書く

将棋界のタイトル戦

1.藤井聡太八冠から七冠へ

聡太君は、叡王を伊藤匠七段に奪われて、七冠へ後退したが、まあ、聡太君も人間だったと言う程度のこと。

二強時代なんて、トンデモナイ。

二強と呼ばれるには、三つのタイトルを聡太君から奪って、その内に竜王か名人を含んでいなければ、その資格はないでしょう。

2.叡王挑戦者は、永瀬か豊島を期待する!

多くのファンは、聡太君にもう一度、八冠制覇を期待するだろう。

私も大の聡太ファンである。しかし、今年は、聡太君には遠慮して貰って、棋界第2位を決める戦いが見たい。

即ち、伊藤叡王vs渡辺明戦!!

渡辺明の真価は、重要なタイトル戦でしか発揮されない。

竜王9連覇中、渡辺は1年間を竜王防衛を中心に作戦を練る戦略だった。平成26年からは、名人位獲得に目標設定した戦略に切り替えた(註1)。

現在無冠の渡辺にとっては、叡王戦は絶好のチャンス!

全力で臨むに違いない。

ところが、叡王戦本戦トーナメントを見たら、なんと、渡辺は1回戦で敗退している。嗟嗟ああ

と、なると、永瀬拓矢九段か豊島将之九段に挑戦者になって貰うしかない!

歴代タイトル獲得期数

1.歴代タイトル獲得期数 第5位に逼る

聡太君は、先日竜王を防衛して、通算タイトル獲得期数26期。

第5位 谷川九段の27期にあと1期とせまった。

年明けの王将と棋王を防衛すれば、今年度で谷川を抜いて単独第5位となる。

もう、この早さは一体なんでしょう!

谷川も天才と呼ばれた男なんですよ。

第4位の渡辺明が31期ですから、令和7年4月以降に4つのタイトルを防衛すれば、抜きます。

でも、その次の中原誠十六世名人は、64期なので、順調に行っても5年はかかる。

1位の羽生さんの99期を捉えるのは、10年先!

歴代タイトル獲得期数

注目棋士

今年の注目棋士は、近藤誠也七段!

近藤誠也七段

2年前にも注目棋士として挙げたのだが、期待に応えて貰えなかった。

不調だった。

なぜ、不調に陥ったか、と、言うと、原因は佐々木勇気八段にあった。

第80期(2021年度)、B級1組で佐々木に敗れた1局だ。

佐々木は1994年生まれで、近藤は1996年生まれ、近藤は2歳下。(註2)

佐々木勇気は、2010年、16歳で四段。中学生棋士の可能性もあったので話題になった。

片や近藤は、佐々木に5年遅れて2015年、19歳で四段。しかし、B級1組への昇級を僅か5年で成し遂げ、七段と成った。これは非常に早い。

途中、C級1組で藤井聡太五段(当時)を破りB級2組へ昇級、翌年度も昇級したので、一躍脚光を浴びた。

佐々木は、近藤より5年早く四段になったものの、B級1組に昇級するまで11年を要した。追い抜かれたのだ。

恐らく近藤は早くから佐々木をライバル視していたに違いない。

「佐々木何するものぞ!」の気概、闘志を秘めていた。

第80期(2021年度)、B級1組で佐々木に追いつかれた。

近藤は、絶対に負けるもんか!の「気合」・・・否、「侮り」がみなぎっていた。

強い対抗心、ライバル意識は、集中力を高めるのだが、屡々しばしば、裏目に出る。

実力を最大限に発揮できる相手は、格上の相手。
負けて元々の精神状態で闘えるからだ。
ところが、絶対に負けられないと強く思う精神状態だと、実力が削がれる。
将棋の場合、ちょっと削がれるだけで、負けに繋がる。
囲碁の場合だと、半目1目の損だろうが、将棋は極端なのだ。

グッと腰を落として、我慢しなければならない局面で、心が浮ついた。

非常に難しい局面。絶対に勝ちを急いではならない局面である。

そのことは、近藤自身、十二分に理解している。

相手が格上か、または格下だったら、急がなかった。

早く楽になりたい!この感情を制御できなかった。

長考をしたのだが、疑問手を指してしまった。

第80期B級1組、佐々木勇気vs近藤誠也

ここから、坂道を転がる様に・・・敗北した。

この一局は、棋士人生の峠の一つだった。

唯の1敗ではなかった。大きな1敗だった。

この後、近藤は、2年間の不調に陥った。

誰の目にも明らかな不調だった。

しかし、今期、蘇った!

と、思われる。(註3)

今第83期B級1組、10回戦を終えて8勝1敗の首位!3位が5勝4敗なので、残り3局のうち1勝すればA級昇級確定!1月16日(木)、11回戦が注目だ。

こうなると、あの1敗は、近藤にとって、大きな糧となったに違いない。

恐らく、香車1本、強くなった、と思う。

今年の飛躍が期待される。

女流棋界の動向

1.初の女性「棋士」誕生となるか

西山朋佳ともか女流三冠が、9月から棋士編入試験に望んだ。5局行って3勝が条件。現在、2勝して、年明けの1月中に第5局が行われる。これに勝てば、初の「棋士」誕生となる。

棋士編入試験の西山朋佳女流三冠

ただ、私に言わせれば、編入試験を経なくても「棋士」の資格あり!

なぜなら、彼女は第66回奨励会三段リーグ戦で14勝したからだ。普通なら昇級するのだが、残念ながら頭ハネだった。14勝は90%以上の昇級率で、仮令たとえ、その期に昇級できなくても、後々必ず昇級する統計がある。だから四段の資格十分。

注目の最終第5局は、1月22日(水)に行はれる。

2.中七海女流三段のデビュー

なか 七海ななみさんが奨励会三段リーグを年齢制限で退会して、令和6年11月1日付で女流三段でデビューした。

奨励会三段リーグから転出した女流棋士は、里見、西山に続いて3人目。必ずタイトル戦に絡んでくる。楽しみ!

注目の新人

藤本なぎさ五段、19歳。デビュー3年目。

現在、順位戦はC級1組、竜王戦5組。

まずは、今期、順位戦B級2組への昇級だ。

タイトル戦を期待するのは、その後だ。

藤本渚

注目の棋士の卵

未だ、四段の「棋士」ではない卵だが、奨励会三段リーグの注目の子。

1.山下数毅

何と言っても、山下数毅かずき三段(16歳)。第73回リーグ戦で13勝して残念ながら頭ハネ(次点1回を貰った)。まあ、この頭ハネはよくある。しかし、彼の偉業は、第37期竜王戦6組で6勝して、決勝に進出したこと。これは史上初。もし、6組優勝すれば、三段リーグの次点1回分が貰え、2回分となって、棋士に成れた。残念ながら藤本渚五段に敗れて準優勝だった。それでも、竜王戦5組昇級は確定した。

なんとか今年度、三段リーグを卒業して、棋士となって欲しい期待の星だ。

2.高坂直矢と炭崎俊毅

次に、共に16歳の高坂直矢君、炭崎俊毅君の2人。(姓名の読み方は不明)

現在、全18回戦中8回戦が終了した時点で7勝1敗、2位と3位である。あと未だ10局残っているが、昇級を期待したい。

3.岩村凛太朗と小窪碧

岩村凛太朗君、18歳。第70回、15歳の時から参加して今期第76期で7期目。現在、2勝6敗、残り10局。三段に成ってからずっと注目しているが、今期の昇級はほぼ無理だ。なんとか踏ん張って、来期こそ昇級して欲しい。

小窪碧君、18歳。岩村君と同じ第70回、15歳の時から参加している。同じく7期目。彼は現在、5勝3敗、残り10局。十分昇級の可能性を残している。頑張れ!

4.苦労人、齊藤優希

齊藤優希君は、28歳。第63回(2018年4月)21歳の時から参加しているので、7年間、今第76期が14期目になる。

苦労人である。本当に真面目に努力していることが、成績から伝って来る。

過去13期中、負け越しが初参加から3期目(第65期)、8勝10敗だけ。

残り12期中、10期は勝ち越しているのだから、凄い。

惜しくも上がれなかった期が4期あった。もうあと1勝、或いは、最終戦に勝っていれば・・・昇級できたのに・・・。

三段になったのが21歳と遅かった。これで中々昇級できないと、普通、どこかで気持ちが切れて、成績が極端に悪くなるのだが、彼は、安定している。

凄いことだ。誠実な努力家に違いない。

こう言う子が、四段に昇級すると、一気に伸びる。

今第76期は、8勝0敗と無傷!!ウワ~!!拍手!拍手!

1月11日、第10回戦終了時点で、10勝0敗!!

このまま順調に勝って、四段昇級を願う!!頑張れ!!

それにしても、深浦康市九段門下には、努力と根性の子が多い。師匠に似たのだろう。

註釈

註1.平成30年からは、目標を名人位獲得に設定

渡辺明棋王(当時)は、第76期(平成29年度、2017年度)順位戦A級を陥落してB級1組へ。その後、目標を名人位獲得に設定。翌第77期B級1組と第78期A級を2期連続全勝!挑戦権を得て、豊島将之名人(当時)から名人位を奪取した。なお、B級1組とA級の2期連続全勝は史上初の記録。

第76期A級順位戦 第77期B級1組順位戦 第78期A級順位戦

註2.佐々木勇気と近藤誠也

佐々木勇気(ささき ゆうき)八段
1994年8月5日生、30 歳。
石田和雄九段門下。埼玉県三郷市出身。
現在、順位戦A級、竜王戦2組。

近藤 誠也(こんどう せいや)七段
1996年7月25日生、28歳。
所司和晴七段門下。千葉県八千代市出身。
現在、順位戦B級1組、竜王戦2組。

註3.第80期から第83期までのB級1組の成績

第80期順位戦B級1組

第81期順位戦B級1組成績表一部

第82期順位戦B級1組成績表一部

第83期順位戦B級1組成績表一部